新耳袋 現代の百物語 全十夜
蓮:やっぱりホラー系のものからスタートしたな、ギャラリーコーナーは。
巴:この本はホラーというか、「怪談」だけどね。いきなり本の内容じゃないところの感想なんだけど、目次の次のページ、怖くなかった?
蓮:確かにな。蛍光色というか、目に鮮やかな色一色で塗られていて何も書いてないんだけど、裏から見ると「新耳袋」の文字が見えるんだよ。しかも逆から読める。
巴:だからって表から見ても何にも見えないのよね。これが何だかよくわからないんだけど怖いのよ。
蓮:この「よくわからない」っていうのがこの本の特徴かもしれないな。この本は著者の取材によって集めた話を収めた本なんだけど、「聞いた話」という体裁がすごく新鮮だったな。
巴:今まで読んだ都市伝説とかホラー物の話って、原因とか因果とか、そういうものを後から知るのが普通だったんだけど、この本ではそれがあまり無いのよね。原因も理由も何にもわからない、わからないんだけど変な事が起こった。それが怖かったわ。今までに無い恐怖だったわね。
蓮:あと、語り口だろうな。聞いた話を載せる、てな感じだから妙に臨場感がある。あと、実際は怖いことだろうにあまり恐怖感を感じなかったりとか。この印象の違いが結構面白かった。
巴:最終夜の巻の狸の剥製と、動物病院での話は笑っちゃったものね。他にも、感動したりホッとしたりするような話もあったわ。そういうの好きなのよ。
蓮:第何夜かは忘れたけど、死んだ父親と好物のスイカの話はマジで泣いたからな。他にも、自分が死んだ後に生まれた孫を悪霊から守ろうとする祖母の話とかな。あれもよかった。
巴:でもメインはやっぱり怖い話よね。特に怖かったのはある?
蓮:第四夜だな。あの巻は突出してた。八甲田山の話はすごかった。めちゃくちゃ怖かったぞ。
巴:UFOに関する話も怖かったわね。正直、読む前はUFOなんて目撃談ぐらいしか無いんじゃない?何て思ってたのよ。甘かった。充分怪談として通用するほどの怖さだったわ。
蓮:それに続く形で「山の牧場にまつわる話」が出てくるんだけど、これがもうすごいスケール。怖いし続きは気になるしで、ドキドキハラハラしながら読んだ。こんなの久しぶりだったなあ。
巴:第一夜のくだんに関する話もとても興味深かったわね。結局わからないままだし、得体の知れない不気味さではこれもなかなかよ。
蓮:第五夜の戦争にまつわる話は、怖いというより重い。「みんなが悪かった」っていう言葉が印象的だった。
巴:そういえばこの本、九十九話を一夜で完読したら怪異が起こるっていわれてるんだけど、どうだったの?
蓮:それが羽月のヤツ、一夜完読する勇気は無かったみたいだぞ。
巴:やってないのね、一夜完読。変なところで臆病なんだから。
蓮:怖い話を読むと変な事が起こる、とかは別の本とかでもいわれたりするけど、もしそうなってたらどうする気だったんだ?
巴:その時は志方あきこさんの「Ave Maria」か遊佐未森さんの「Pie Jesu」を流して部屋を浄化しようとか考えてたみたいよ。
蓮:馬鹿じゃないのか。クリスチャンでも何でもないし、そんなことに使っちゃ志方さんと遊佐さんにも失礼だろ!そもそも物理的に浄化するのが先じゃないのかあの部屋。(注:掃除)
巴:お化けだって、あんな汚い部屋には出たくないわよね。